札幌市中央区東本願寺前駅にある、初心者向けスポーツジム フィットメソッドです。
トレーニングには様々な種類がありますが、その中の1つに「体幹トレーニング」と呼ばれるものがあります。
体幹トレーニングは、主にスポーツ競技力向上を目的として実施されており、おそらく一般的には、
こんな感じのエクササイズとして、広く知られているのではないでしょうか?
今回は「スポーツ競技力向上 体幹トレーニングは意味ないって本当? 効果はあるの?」というタイトルで記事を書いていきます。
長文です。
目次
結論
最初に結論からお伝えしますと、何をもって体幹トレーニング、とするのかで答えは変わってきます。
もし「インナーマッスルを意識して」「低強度」「不安定な床面で」的なものを体幹トレーニングとするのであれば、スポーツ競技力向上において「全然効果的ではない」とは言いませんが、取り入れる必要はほぼ感じません。
一方、抽象的な表現になってしまいますが、他の筋肉同様に、ガッツリと体幹を鍛えるトレーニングを体幹トレーニング、とするのであれば、スポーツ競技力向上において、それなりに効果的、マイナスに働くことはないかと思います。
体幹とは?
まずは、そもそも「体幹」とは何か? について確認をしていきましょう。
体幹は、基本的に「四肢 (腕・脚) と頭部を除いた胴体部分」とされています。
胸・背中・お尻、どれも体幹です。
しかし、体幹トレーニングの情報を発信している、WEBサイトや書籍を眺めてみると、ほとんどがお腹周りを集中して鍛えるエクササイズを中心に紹介しているため、
・広義:四肢と頭部を除いた胴体部分
・狭義:お腹周り
と認識しておけば、大きな問題はないでしょう。
体幹が重要視されている理由は?
体幹トレーニングという言葉があるくらいですので、体幹が重要視されているのは間違いなさそうですが、その理由は何なのかというと、
・力の伝達経路になるから
・動作の基盤になるから
の2点が上げられています。
まず1つ目の「力の伝達経路になる」ですが、ここにトンカチがあったとします。
赤い丸で囲んだ部分は、通称「柄 (え) 」と言いますが、ここが弱く脆いと、いくら精一杯トンカチを振り下ろしても、途中でパキッと折れてしまい、その力を釘に伝えることはできません。
このたとえをスクワットに変えてみると、先ほどの柄は体幹に該当します。
体幹がフニャフニャだと、いくら脚の力が強くても、上半身がグニャッと折れ曲がってしまい、まともにバーベルを持ち上げることはできません。
一方、体幹の安定性が高ければ、脚で生じた力を、余すことなくダイレクトに伝え、グイッとバーベルを持ち上げることでしょう。
つまり体幹は、このように「力の伝達経路」として機能しているわけです。
2つ目の「動作の基盤になる」ですが、例えば (1) では、腰痛歴のない健常者を対象に、脚を前に上げたり横に広げたりして、その際、お腹の筋肉がどのように活動するのかを調べています。
結果、どの筋肉よりも、特に腹横筋 (お腹のコルセットのような筋肉) が先立って活動することが確認されました。
この現象は「フィードフォワード機構」と呼ばれているのですが「腹横筋が先立って活動することで、体幹の安定性を高め、よりスムーズに四肢を動かすことができるのだろう」と推察されています。
つまり体幹は、このように「動作の基盤」としても機能しているわけです。
スポーツでは「脚で生じた力を腕に伝える」なんてシーンは山ほどありますし、四肢もかなりハードに動かします。
スポーツ競技力向上においては、このような2つの理由から、体幹が重要視されています。
体幹の定義の再考
・力の伝達経路になる
・動作の基盤になる
以上2つの理由から、体幹は重要視されているわけですが、先ほどお伝えした、
・広義:四肢と頭部を除いた胴体部分
・狭義:お腹周り
これを定義とすると、個人的にしっくりこない感があります。
確かに体幹は重要ですが、スポーツ競技力向上においては、厳密に言うと「体幹の安定性」が求められているわけで、ここにこの定義を当てはめると「四肢と頭部を除いた胴体部分の安定性」「お腹周りの安定性」となり、もちろん意味は通じるかと思いますが、少し大雑把な感じがするのです。
そのため、私は「脊柱 (背骨のことです) 、その中でも特に腰椎を指す」を体幹の定義としています。
そうすると、体幹の安定性は「脊柱の安定性」「特に腰椎の安定性」となり、こっちの方が的を得、かつ専門的です。
よって、あくまでも「私の中で」ではありますが「特に腰椎の安定性に関係する筋肉をガッツリ鍛え、脊柱の状態を、意図的にコントロールする能力を高めることを目的としたトレーニング」を体幹トレーニングとして位置付けています。
体幹の安定性を高める2つの方法
ここまでを一旦まとめると、
・体幹は、広義として「四肢と頭部を除いた胴体部分」狭義として「お腹周り」と認識して大きな問題はない。
・体幹は「力の伝達経路になるから」「動作の基盤になるから」という2つの理由で重要視されている。
・スポーツ競技力向上においては、体幹 (の安定性) が重要視されている。
・個人的には「脊柱、その中でも特に腰椎」を体幹の定義としている。
こんな感じになります。
では、どうすれば体幹の安定性を高めることができるのかというと、
・内側からの安定性向上
・外側からの安定性向上
2つの方法があります。
まず1つ目の「内側からの安定性向上」ですが、これは「腹圧を上昇させる」というものです。
お腹の中には、例えば肝臓や腎臓といった臓器があるわけですが、それらは腹膜と呼ばれる、薄い膜状の組織に覆われています。
そして、腹膜に覆われた空間は腹腔 (赤い丸のところで「ふっこう」と読みます) と言い、そこに生じている圧力が「腹腔内圧」略して「腹圧」です。
腹圧は、腹横筋や横隔膜・骨盤底筋群などによって生成され、体幹の安定性に関与することが確認されています (2) 。
腹圧を上昇させる ⇨ 腰椎を押し支えるような力が働く ⇨ 結果体幹の安定性が高まる、という流れです。
イメージとしては、上のイラストにあるよう、水がタップリ詰まった & 空でグシャグシャに潰れたペットボトル、を想像するとわかりやすいかと思います。
水がタップリ詰まったペットボトルでは、その内圧が高いため、力を加えても折れ曲がることはまずありません = 安定性が高い。
一方、空でグシャグシャに潰れたペットボトルでは、その内圧が低いため、力を加えようものなら簡単に折れ曲がってしまいます = 安定性が低い。
ちなみに、腹横筋や横隔膜・骨盤底筋群などは、身体の奥深く深層に位置しているため「インナーマッスル」と呼ばれたりします。
2つ目の「外側からの安定性向上」ですが、これは「直接体幹に働く筋肉を収縮させる」というものです。
腰椎の動きに作用する、お腹の腹直筋・背中の脊柱起立筋 (腸肋筋・最長筋・棘筋の総称) などにギュッと力を入れる ⇨ 結果体幹の安定性が高まる、という流れになります。
イメージとしては、上のイラストにあるよう、電信柱の横、斜めにくっついている地支線を、腹直筋や脊柱起立筋に置き換えるとわかりやすいでしょう。
地支線がピンッと張っている (ギュッと力が入っている) のであれば、電信柱の安定性はより高くなります。
が、地支線がピンッと張っていない (ギュッと力が入っていない) のであれば、電信柱の安定性は低くなるはずです。
ちなみに、腹直筋や脊柱起立筋などは、触診できるくらいの表層に位置しているため「アウターマッスル」と呼ばれたりします。
このように、体幹の安定性は「内側から」と「外側から」2つの方法で高めることが可能です。
内側からと外側から 体幹の安定性をより高める戦略
先ほど、体幹の安定性を高める方法として、内側から (腹圧を上昇させる) と、外側から (直接体幹に働く筋肉を収縮させる) 、2つの方法を紹介しましたが、一般的に広く知られているであろう体幹トレーニングでは、前者に焦点を当てている印象を受けます。
有名なエクササイズとしては「ドローイン」なんかが良い例でしょうか。
ドローインは、お腹をペコっと凹ませるエクササイズのことで、腹横筋の強化に効果的とされており、結果腹圧をより上昇させ、体幹の安定性をさらに高めると言われたりします。
しかし、お腹をペコっと凹ませたところで、腹圧は上昇しません。
腹圧を上昇させるためには、それを生成するうちの1つ、横隔膜が下に下がっている必要があり、つまり「息を吸って止めている状態」で腹圧は上昇します (3) 。
腹圧を上昇させるに最も重要な要素は「今呼吸がどのような状態にあるか?」です。
もし仮に、ドローインで腹横筋が強化され、結果腹圧がより上昇し、体幹の安定性がさらに高まったとしましょう。
しかし、おそらくその程度は、かなり微々たるものになるはずです。
解剖学書で多少の違いはあるのですが、腹横筋の厚みは約3㎜ほど、腹直筋の厚みは約15㎜ほどと、同じお腹の筋肉とは言えど、その筋厚は5倍も違います。
つまり、ドローインで腹横筋が強化されたとしても、そもそもの筋厚が薄すぎるため、結果腹圧がより上昇し、体幹の安定性がさらに高まるとは、正直考えにくいのです。
一方、直接体幹に働く腹直筋や脊柱起立筋などは、腹横筋よりも筋肉が厚いため、それらを強化し収縮させれば、安定性を劇的に高めることができるでしょう。
電信柱の横、斜めにくっついている地支線を、頑丈・丈夫なものに置き換える感じです。
実際「インナーマッスルに働くドローインと真逆」と言うと語弊があるかもしれませんが、腹直筋や脊柱起立筋などのアウターマッスルにギュッと力を入れる「ブレーシング」というエクササイズがあるのですが、この2つにおける体幹の安定性は、後者の方が明らかに高いとの報告もなされています (4) 。
ということを考えると、体幹の安定性をより高める戦略としては、内側からではなく、外側からの方が有効と判断でき、このような理由から、冒頭で『「インナーマッスルを意識して」的なものを体幹トレーニングとするのであれば、スポーツ競技力向上において「全然効果的ではない」とは言いませんが、取り入れる必要はほぼ感じません』と説明した次第です。
体幹の安定性とスポーツ競技力向上
ずいぶん前置きが長くなりましたが、では結局のところ、体幹の安定性を高めることが、スポーツ競技力向上に繋がるのかというと、これに関してはいくつか研究が実施されています。
例えば (5) では、運動経験のある大学生を対象に、プランクをはじめとした、まさに一般的に広く知られているであろう体幹トレーニングのエクササイズを、週2回の頻度で8週間行ってもらい、垂直跳び・立ち幅跳び・10mシャトルラン・メディシンボールスローなどのパフォーマンスに、どのような影響を及ぼすのかを調べています。
結果、有意な変化は一切確認されませんでした。
このような研究結果を聞くと、体幹トレーニングそのものに疑問を抱く方もいらっしゃるかと思いますが、ここまで繰り返してきた通り、体幹の安定性がスポーツ競技力向上に重要なのは事実です。
確かにこの研究では、各パフォーマンスにおいて、有意な変化は何1つ認められませんでしたが、そもそも取り入れるエクササイズが変われば、結果が変わっていた可能性は十分に考えられます。
また、体幹の安定性が高ければ、特にコンタクトスポーツでよく見られる、相手選手との接触によるグラつきを軽減させることができ、よりスピーディー、より的確に身体を動かすことも可能になるはずです。
経験論が含まれますが、ガッツリと体幹を鍛えるトレーニングを行えば、スポーツ競技力向上において、それなりに効果的、マイナスに働くことはないでしょう。
体幹トレーニングのエクササイズ
では、どのような体幹トレーニングを行えば良いのかというと、ザックリにはなりますが、その人のレベルに合わせて、他の筋肉同様に、ガッツリと腹直筋や脊柱起立筋などを鍛えるエクササイズを取り入れればOKです。
つまり「低強度で軽くチョコっと筋肉を刺激する」的なものでなければ、相応の効果が期待できるかと思います。
また「バランスボールやバランスディスク上でエクササイズを行うと、文字通りバランスを取る必要が出てくるため、低重量を扱ったとしても、腹直筋や脊柱起立筋などは活動しやすくなる」と言われることもありますが、(6) では、スクワット・オーバーヘッドプレスなどを「50%1RMの重量・安定しない床面」と「75%1RMの重量・安定した床面」で実施し、それぞれの筋活動を調べています。
結果、50%1RMの重量・安定しない床面で筋活動が増加することは特になく、むしろ腹直筋に関しては、75%1RMの重量・安定した床面でより活動しました。
高重量ほど筋力の大きな向上が望めますので、ということを考えると、あえて不安定な床面でのエクササイズを採用する必要は、あまりないかと思います。
体幹トレーニングのまとめ
・体幹は、広義として「四肢と頭部を除いた胴体部分」狭義として「お腹周り」と認識して大きな問題はない。
・体幹は「力の伝達経路になるから」「動作の基盤になるから」という2つの理由で重要視されている。
・スポーツ競技力向上においては、体幹 (の安定性) が重要視されている。
・個人的には「脊柱、その中でも特に腰椎」を体幹の定義としている。
・体幹の安定性を高める方法は「内側から (腹圧を上昇させる) 」と「外側から (直接体幹に働く筋肉を収縮させる) 」の2つがある。
・体幹の安定性をより高める戦略としては、内側からではなく、外側からの方が有効。
・一般的に広く知られているであろう体幹トレーニングのエクササイズ (プランクなど) では、パフォーマンスに有益な影響を及ぼさない可能性が高い。
・しかし、スポーツ競技力向上において、体幹の安定性が重要になるのは事実。
・体幹トレーニングを行う際は、ガッツリと腹直筋や脊柱起立筋などを鍛えるエクササイズを取り入れる。
・「インナーマッスルを意識して」「低強度」「不安定な床面で」的な体幹トレーニングを取り入れる必要はほぼ感じない。
最後に
今回は「スポーツ競技力向上 体幹トレーニングは意味ないって本当? 効果はあるの?」というタイトルで記事を書いてきましたがいかがだったでしょうか?
私見ですが、例えば四肢なんかと比べ、体幹が突出して重要視されているような風潮を感じる時があります。
確かに体幹は重要で、安定性も重要で、そこに異論は何1つありません。
しかし、体幹以外の部分も、当然「超超超」重要です。
一般的に広く知られているであろう体幹トレーニングのエクササイズでは、垂直跳びをはじめとしたパフォーマンスを有意に変化させませんでしたが、例えばスクワットでは、ジャンプ力の向上が確認されています (7) 。
そのため、スポーツ競技力向上において、体幹トレーニングという、体幹部位だけを特別視した名称が周知されていることに、少し違和感を覚えてしまうのです。
よって、意識としては「もちろん、全身を満遍なく鍛えているよ。腕も脚も胸も背中もお尻も、そしてお腹周りもね。え? 体幹に焦点を当てたトレーニングは、体幹トレーニングって言われているんだ〜。そうなんだ〜」くらいに捉えておくのが良いかもしれません。
6950字、長文でした。
次回作もご期待ください。
参考文献
(1) Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb
(2) Intra-abdominal pressure mechanism for stabilizing the lumbar spine
(3) The effects of breath control on intra-abdominal pressure during lifting tasks
(4) Quantification of lumbar stability by using 2 different abdominal activation strategies
(5) Development and validation of a core endurance intervention program: implications for performance in college-age rowers
(6) Effect of surface stability on core muscle activity for dynamic resistance exercises
(7) Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle and tendon adaptations